海峡を渡るバイオリン

 お話はすごくいいお話なんだけどいくつか引っ掛かりがあるドラマでした。

 まず第一に草磲剛の演技がいまいち。熱演ではあるんだけど基本が弱いと感じました。もっともがっくし来たのはラスト直前、故郷を訪れた主人公が秋の紅葉の色を見て、それが『ストラディバリウスの色』だと発見する最高の山場。まず主人公は『色だ』とつぶやきそのあと『ストラディバリウスの色だ』と発見の驚きに満ちた言葉を発します。ここでの最初の『色だ』があとのセリフの一部として機能しておらず単にそこに意味のない『色』が存在することを説明するような(つまりは棒読み)口調であるため、見ているこちらは主人公と同じ発見の喜びについていけないのです。

 次に一部の演出。風景が美しいのはいいのですが小動物の動作や草花のそよぎをカットインする手法は嫌でも同じ杉田監督の『北の国から』を連想させ、少し興醒めでした。悪いわけじゃないんですけどね。

 せっかくここまで描写したんなら、その色を感じとった主人公が如何にしてラストで得た賞賛へたどり着いたのかも見せて欲しかったです。妻との生活の再出発や、バイオリン以外の弦楽器制作への意欲などエピソードには事欠かないと思います。3時間では無理でしょうから二夜連続になりますが時間的に芸術祭参加への縛りがあったんでしょうか?(※調べてみたら芸術祭参加規程の中にやっぱり"参加作品は,1作品あたり3時間以内とする"という一文があった。)ラストシーンへのつながりは不自然な感じもあるので、機会を見てディレクターズカット版を放映してくれることを望みます。

 とはいえ、力作と呼ぶにふさわしい、クオリティの高いドラマであったことは確かです。(個人的に)期待のバイオリンをなめるシーンは一瞬でしたが、主人公がバイオリン作りに傾倒を強めるきっかけのシーンとして十分機能していたと思います。

 ドラマのクライマックスである、主人公の不注意で招いた愛娘の生死がかかった嵐の一夜は見ごたえあり。そこまで抑えた芝居でこなしてきていた特殊女優菅野美穂の爆発ぶりはお見事。完全に主役を食った素晴らしい切れっぷりでした。受ける草磲君が一杯一杯な感じが逆に真実味が出ていたと思います。

 完全に余談ですが、主人公の子供役はおそらく杉田監督の実子ですよね。名前が杉田一道・有とクレジットされていたので間違いないと思います。(赤ちゃんのほうは顔も良く似ている)これは前作の『北の国から』で中嶋朋子の実子を起用し、危ない目にあわせたこと(列車の窓から抱いたまま身を乗り出すシーン)への身をもった謝罪(雨でずぶぬれにさせた)と見ましたが真意はどうでしょうか?。