タイガー&ドラゴン 第十回

 <承前>元舎弟のウルフ商会に吸収話(その実欲しいのは虎児)をかけられた新宿流星会と自身の落語家への精進(=かたぎへの道)の狭間に立たされた虎児と高座への復帰を果たす小竜を『品川心中』の要素をちりばめつつ描く回。

 『品川心中』は落ち目の花魁がプライドをかけてしょうもない男をだまして心中しようとする(が未遂に終わり、真相を知った心中相手に仕返しされる)噺ですが、花魁の落ち目を感じるところを竜二の実家でないがしろにされる心理に結び付けるあたりをはじめ、登場人物の心理状態をその場に応じて細かく噺の中の心理状態にかぶせてこちらの想像力を高める手法に感心しました。また、再現場面の力の入れ方は質・量ともに今シリーズで一二を争うんじゃないですかね。

 正直小竜の噺は私にはいまひとつ。小竜は自信満々の様子でしたが、こちらからは小虎のイミテーションを見ているようで辛かったです。これが小竜のやりたかった噺なんでしょうかねぇ。この噺の微妙さや、虎児に対して『やっぱりかなわないや』とつぶやくくだりなどを見ていると、このまますんなりと高座に納まる感じがしませんねぇ。

 私は幼いころに読んだ手塚治虫の『どろろ』に非常に影響を受けている(というかトラウマか)人間で、『百鬼丸が妖怪を倒してひとつずつ自らの肉体を取り戻していく(このシーンが結構幼い目にはグロ)』というのが人間成長のひとつの基本のように捉えているところがあります。そういった意味で、虎児がカンパを断ったシーンは妖怪をひとつずつ退治していく百鬼丸のイメージと重なりジンときました。

 最終回は『子は鎹(子別れ)』。ひねり無しでストレートに来るのか、それとも照れ隠しで一ひねりしてくるか非常に楽しみです。