マルタ・アルゲリッチの音楽夜話

 彼女の名がキーワード登録されてる割にはこの番組に関する書き込みがない。(11/5深夜BS2)ファンにとっては驚くべき番組だと思うが、もうアルゲリッチの時代でもないのか?

 "MARTHA ARGERICH Evening Talks"のタイトルどおり、ランプの光の中で、アルゲリッチが自らの音楽体験、作曲家観、室内楽をやる意味などについて語る映像作品。語りにあわせて、貴重な映像が映し出されるのがファンにとってはたまらないポイント。私にとっては発売延期になって久しい『アルゲリッチプレイズピアソラ』はこんな感じかと身を乗り出してみた(聴いた)"リベルタンゴ"をあわせるものや、あまりに可愛らしい10代の映像が心に残りました。現在の彼女は立派な体躯になり、眉間をはじめ顔には深いしわが刻まれ、年輪という比喩がこれほど似つかわしい歳のとり方もあまりないのではないかと感慨ひとしおです。

 最近の演奏では、弱音のファンタジックな響きこそ失われていませんが、少し雑に弾き流している感じが否めず、CDを手にとってもレジまでたどり着かない場合が多いです。しかし、こういう番組を見ると、やはり彼女は(私にとって)他に代替のきかない、唯一無二の音楽家だという思いを強く持ちました。

 私はベートーヴェンのP協では第4番が大好きなのですが、アルゲリッチに至っては、はじめて聴いたときの感動があまりに強く、彼女にとって特別な音楽になってしまい、弾くことはできない(だろう)そうです。これは残念な告白。ようやく3番を弾いてくれたので次は4番と期待していたのですが・・・。

 グルダを非常に大切に思っている気持ち、音楽におけるユーモアの重視、シューマンへの深い共感、演奏における『慣れ』への恐怖、一人で弾くことの寂しさなど、示唆に富む発言が多く、何度も見返したい名作だと思います。(正直土曜朝は息子の妨害で集中し切れませんでした)再放送された際は音楽好きの方は是非お見逃しなきよう。